板尾創路さん。そして「明日にかける橋」の想い出 [映画業界物語]
板尾創路さんからの連絡。そして「明日にかける橋」の想い出
「監督。今、渋谷で舞台やってるんですけど、見に来ませんか?」
僕の監督作「明日にかける橋」に出て頂いた板尾さん。自らの連絡!昨年秋のことだ。「これは行かねば!」と翌日、お邪魔した。若い俳優さんと共演するコメディで、何度かすでに上演しているシリーズの1つ。ステージの上を出演者が走り回るパワフルな舞台。
で、入場時に受付でチケットを受け取ると「面会券」というのが付いていた。裏を見ると「いたお」と書かれている。多くのファンが楽屋に訪ねてくるので、関係者用に整理券が用意されているのだ。終演後。その券を持って、関係者入り口に並び、スタッフさんに誘導されて中へ。すでに関係者が板尾さんを囲み、盛り上がっていた。
お花を渡したり、一緒に写真を撮ったり。邪魔しないように少し離れて見ながら、「明日」での彼の名演技を思い出す。鈴木杏ちゃん演じる娘と思いを語る場面は本当に涙なしで見られなかった。単に板尾さんの芝居がうまいというだけではない。渾身のシーンとなった。
しかし、なぜ、板尾さんはわざわざ連絡をくれたのか? 通常、映画に出てもらった俳優さんの舞台があると、撮影直後なら僕はできる限り拝見する。鈴木杏ちゃんも、田中美里さんも、藤田朋子さんも、百川晴香さんの歌のライブも見せてもらった。
でも、俳優さんから連絡をもらったのは初めて。それも撮影が終わってすでに2年近い。そんなことを考えていると、最後の客がいなくな理、板尾さんが急ぎ足でこっちにやって来た。
「監督〜。わざわざ、ありがとうございます!」
本来は今見たばかりの芝居の話をまずしなければならないのに、なぜか?「明日にかける橋」の話をしてしまった。というのも、俳優さんは撮影が終わると、すぐに次の映画。映画館公開初日は舞台挨拶で来てくれるが、そのあとはさらに次の作品。と、映画がその後、どんな展開をしたか?を知らないことが多い。特に板尾さんは超売れっ子。あれから何本も映画やドラマに出演しているはず。
で、映画のご報告。アメリカの映画祭で招待上映になったこと。地元・静岡では9週間のロングランになったこと。さらに年明けにアンコールでもう1日だけ、映画館上映されたこととか。
「そら凄いですなあ〜。普通ないですよ〜」
と板尾さんも喜んでくれた。「明日」は企業映画ではない。地元のおばちゃんたちが手を挙げ、寄付を集めて作った故郷映画。毎日、おばちゃんたちが朝ごはんを作ってくれ、スタッフもキャストもそれを食べて撮影を始めた。いつもと違う、そんなスタイルの映画に板尾さんも感じるものが多かったようだ。
「また、静岡で、映画。やりたいですよね〜」
しみじみとそういう。ああ、きっと今回の連絡はこういうことだろう。「あれから映画。どーなったんかなあ。地元の人ら、元気かなあ?監督に連絡したら分かるんちゃうかな」と思い、くれたものではないか? それほどあの夏の撮影が想い出に残っているということ。
企業映画やテレビドラマは製作費も豊富。大きなトラブルもない。対して故郷映画は地元手動なのでいろいろ大変。予算も少ない。でも、そこに愛があり、真心がある。多くの俳優さんたちはそれを感じ、頑張ってくれる。板尾さんもそんなお1人なのだ。多くのメジャーな仕事をこなす人の記憶にも残る映画だったということ。映画は関わった人たちの素敵な思い出として残って行くのだと改めて感じる。俳優さんから直接、それを聞くことは少ないので、とても嬉しい瞬間だった。
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