若き表現者たちへ。俳優や作家たちへの伝言 [映画業界物語]
若き表現者たちへ。俳優や作家たちへの伝言
映画監督業だけでなく、俳優でも、脚本家でも、音楽家でも、作家でも、画家でも、歌手でも、そうだが本当に凄い人は「お金のため」でなく仕事する。「名誉のため」でない仕事をする。ただ、その種の仕事と巡り会うことはなかなかできない。
「誰のために作るのか分からない作品」「やる気のない人たちとの作業」「楽して金儲けを企む会社」「愛情のない作品作りをするところ」業界には本当に魑魅魍魎、人間のクズが多い。
この程度のギャラで? 長時間働かされ! こんなで食っていけねよ!と言う仕事も多い。足元を見て、決めた賃金をあとで値切ってくる人たちもいる。自分たちはそれなりの月給をもらっているのに。
最初は屈辱的でも、続けていれば、足掻いていれば、やがて本当に自分が命懸けでやりたい仕事と出会える。その時に、自分の仕事が「お金のため」「名誉のため」でないことを知る。いや、仕事でさえない。自分が生きていることの証明というべきものであることが分かる。
でも、それは人に自慢できる仕事とは限らない。華やかなものでないかもしれない。ギャラは安いかも。作業時間からすると合わないもの。注目もされず、褒められもしないかもしれない。でも、「これはやらねばならない!」と言うものがある。
若い内は「金持ちになりたい!」「有名になりたい!」ということにこだわる。ジョン・レノンだって「バンドをやれば女にモテる」とギターを始めた。でも、ビートルズとして成功し、金も、名誉も手に入ったら、それはさほど重要ではなく、もっと大切なことがあることに気づいたという。
松田優作が「ブラックレイン」で役が決まった時、彼は癌で体が蝕まれていた。医者に言われる。「映画に出たら手術が遅れ、もう助からない。手術をしたら、一生車椅子生活だが、生きていける」彼は前者を選び、撮影に臨む。そして、映画は完成。この世を去る。車椅子で生き続けることより、憧れのハリウッド映画に出演すること。演じることを選んだのだ。
バカだと思えるかもしれない。が、それが俳優であり、表現者というもの。お金より、名誉より、そして命より大切なものがある。自分が生まれてきたこと。生きていること。存在することの意味を探す戦い。それが「表現」なのだ。
だが、最初はそんな仕事となかなか出会えない。「まだ、本気出してないから」と手抜きをする若い人たち。大切なのは毎回、全力でかかること。そうすれば環境は変わっていく。評価され、ふさわしい依頼が来る。毎回、命懸けで、人生を賭けてかかれば、必ず道は開ける。それが「表現」という世界なのだ。
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