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「撮影が終わると映画は完成!」と思われるが実は違うという話 [地方映画の力!]

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何年か前に監督した映画。撮影終了後に半年ほどポストプロダクション(編集等の作業)それを経て上映会をするために再びロケ地を訪ねた。映画好きのお爺さんがいて、ご挨拶。開口一番、こう言われた。

「監督、半年も何してたんですか? 撮影も終わったし、いつ上映してくれるのかズッと待っていたんですよ!」
「はあ。どういうことです?」
「だって、撮影が終わったんだから、さっさと上映すればいいでしょう? 皆、楽しみにしていたのに待ち疲れて、映画のこともう忘れてますよ!」


噛み合わない会話。要はそのお爺さん。映画は撮影が終われば完成!と思っていたのだ。しかし、その方は映画ファン。今も8ミリ映画を趣味としている。なのに「何で〜?」と思うのだが、その町の方々に会うと同じことを言われた。

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そう。その町の人たちは撮影が終われば映画は完成。というのも「あとは撮影したフィルムを繋ぐだけ!」と思い込んでいるのだ。たぶん、その町の方だけでなく、日本中の多くの人はそう思っているだろう。これにはかなり驚かされた。

中には「半年の間、どうせ遊んでいたのだろう? みんな上映を楽しみにしていたのに!」と怒られたり「別の仕事で海外へ行ってたんですか? それで上映が遅れたんですね?」と気遣われたりで、さらに困惑。半年近く編集室に籠もり、朝から深夜まで編集。まともな食事も出来ず、片手に菓子パンの半年。完成し映画を見たら地元の方は喜んでくれると、がんばっていただけに「遊んでたんだろ?」はかなりショックだった....。

そこで映画の撮影というのは映画制作の一部であること。撮影終わりが完成ではなく編集という作業にもの凄く時間がかかることを説明したのだが、多くは「撮ったフィルムを順番に繋ぐだけでだろ? そんなの1週間もあればできるだろう?」と言われる。んーーどういえばいいんだろう。

映画制作は3つに分かれる。「プリプロダクション」企画ーシナリオ執筆ーキャスティングースタッフイングーロケハンー撮影準備という行程。「プロダクション」撮影。「ポストプロダクション」編集、音楽制作、音入れ、アフレコ、宣伝、上映までの作業の3つに分かれる。こういうと「撮影」は映画の一部分であることがよく分かる。

撮影には俳優が参加するので、派手だし、一般の目を惹きやすい。が、映画制作の多くは地味な作業を長期間続けるものなのだ。特に編集は最低でも1ヶ月以上。僕の場合は3ヶ月。師匠の大林宣彦監督なら6ヶ月はかける。ここが理解されずらいところ。「撮影した順にフィルムを繋ぐだけ」という考え方は間違いではないが、それは違うのだ。説明する。

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昔の日本映画は無駄なカットは撮らない。本当に必要な芝居だけを撮影。NG抜きをして、シナリオ順に繋げば出来上がり。だから、昔の映画は2週間代わりで2本立て上映が可能だった。それは現代でも通用する撮影法なのだが、今では多くのフィルムメイカーが非常に凝った撮影をする。

同じシーンをいろんな角度から撮る。ハリウッド方式に近い。カメラを2台3台使う監督もいる。フィルムからデジタルになったことで安価にそれができるようになった。行貞勲監督、岩井俊二監督ら、有名監督もその手法を使う。僕もデビュー作からその撮影法。だから、同じシーンの映像がいくつも存在する。

その手法で撮れば俳優のAさんのアップ。Bさんのアップのどちらを使うか?を選べる。従来の日本映画なら撮影前にどちらのアップを使うか?を監督が決めて、その俳優のアップだけを撮るので、あとで選択はできない。それを可能にする手法である。

さらに昔の映画のように2人の俳優の会話を真横から撮り「はいOK!」という撮影法はあまりされない(撮影が簡単で時間がかからず、照明も一度のセッティングで済むから多様された)撮影は簡単だが、それぞれの俳優の表情が見えず、盛り上がらない。だが、新しい手法で撮れば、いろんな角度から俳優たちを見せることができる。Aさんのアップ。Bさんのアップ。Aさん越しのBさん。2人のツーショット。ただ、編集は大変。もの凄い数の形が可能になり、最善を選び作業せねばならない。

つまり、古い日本映画は撮ったものを繋ぐだけだが、新しい方法論で撮れば無限大の編集の可能性がある。さらに昔なら2分3分続くワンカットがよくあった。それが長いほど「いい映画!」という評論家もいたが、今は3秒4秒でカットが変わる。そうすることでテンポが早くなる。リズムが出て来る。というメリットがある。でも、3秒のカットで2時間の映画を繋ぐとどうなるか? 作業だけでも、もの凄い時間がかかる。

こんなふうに現代の日本映画は非常に細かく、緻密な編集がされている。毎日、朝から夜中まで作業しても3ヶ月4ヶ月かかるのが通常なのだ。でも、一般の人にはその辺のことを知る機会がなく「撮影が終われば、映画は完成〜!」と思われがちなのだ。さて、その恐怖の編集が間もなくスタートする。その件についてはまたのちほど書かせて頂く。


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