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明日にかける橋ー編集日記 太田組式編集の秘密? [「明日」編集]

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今朝からは板尾創路さんの「空き地」の場面を編集。このシーンは物凄い。編集すると神経が切れそうになるので、粗編もほどほどにして、本編集で勝負することにしていた。というのも板尾さんの演技が本当に凄い。渾身の演技とはこんな芝居をいうのだろう。その芝居を数秒ずつ切り出して繋いでいる。

よく日本映画では「ここぞ!」という芝居はワンカット・ワンシーンで撮る。俳優の素晴らしい演技を寸断しない方法だ。感情が高ぶる芝居を「はい。一度カット。カメラ位置を変えて続き行きます〜」では、感情が切れてしまうからだ。だから、カメラを止めずに、そのシーンの芝居を長回しで一気に撮ってしまうのだ。

だが、この場合。舞台中継のようにカメラを離れた場所に置き、延々と撮ったり、段取りをしてカメラを手持ちにして、スタッフ全員が隠れて撮影するとかせねばならない。そして俳優が素晴らしい演技をしていても、カメラが引きなので、俳優が小さくなり芝居がよく分からないということもある。

僕の場合はマルチカメラ。1回の演技を複数のカメラで撮るので、俳優の演技を寸断せず、それでいてより引きの演技を撮ることができる。俳優も気持ちを途中で止めることなく、そのシーンを演じ切れる。板尾さんのそのシーンも出来る限り、芝居を止めずに撮影した。ここも感情の高ぶりが大切なシーンだからだ。その場面が本当に凄い。だからこそ、慎重に編集せねばならない。

ただ、数時間編集すると神経が切れそうになる。何といえばいいのか?この感覚。水に潜っていると、息を止め続けることができなくなるという感じか? 実際、細かいカットを編集するときに息を止めている自分を感じる。例えばバットを振るときのような。ここぞというときは集中するために呼吸を止める。
三船敏郎が「椿三十郎」で一気に人十数人斬るシーンも息を止めてやったという。それに近いのか?

そして1秒、3秒というコマを切りだし、つなぐ。やはり外科手術だ。医者が手術をすると、心身共に極度の疲労をするというが、編集も同じだ。ま、編集は間違って切っても、もとに戻せるが、本物の手術だとそうはいかない。「私、失敗しないので」というのは大事。編集で疲労困憊になる理由。他にも考えて分かってきた。これが太田組スタイルができる方法論のひとつでもあること感じる。

先の記事にも書いたが、通常は監督は主人公に感情移入して、物語を見る。つまり、主演俳優の視点で演出する。監督がヒロインを恋することで物語も盛り上がる。だが、僕の場合は違って、撮影はドキュメンタリーなのだ。アフリカのサバンナでライオンを撮ったり、アマゾンでワニを撮影するのに近い? だから、現場ではライオンが、いや、俳優がいかに自由に芝居ができるか?を気遣う。僕がこうしてほしいという指示は出さない。

つまり、現場では僕は観客なのだ。このこと、鈴木杏ちゃんは見抜いていた。それをインタビューで答えている。詳しくは年末の完成疲労上映会で販売されるパンフを読んでほしい。そこに杏ちゃんによる謎解きが掲載されている。話は戻って、現場では観客。そして編集は? そこで初めて出演者の気持ちで物語を繋いでいく。今、作業中のシーンでいうと板尾さんの芝居。どんな気持ちなのか?を画面を見て想像。

苦しみ、葛藤、後悔、憤り、登場人物のそんな思いを受け止めて、それを繋いでいく。シナリオ通りに繋ぐだけではないのだ。もちろん、物語の展開順というのは大事だが、そのときにアップか? 引き絵か? 相手役の表情か? 雲か? いろんな選択が可能。マルチカメラなので、さらにいろんな選択ができる。どれをどのくらいの尺繋ぐか? それによって作品が大きく変わる。そのときに僕の場合は俳優の、その人物の気持ちに成り切り、選んで繋ぐのである。

だから、疲れる。その人物が感じる哀しみや怒りを一緒に体験するのだから、疲労困憊になる。なので、力の入ったシーンはなかなか進まない。海に潜り続けると息が続かなくなるのと同じで、限界を超えてると前に進めなくなる。変な例でいえばイタコの霊を呼び、長々と霊が帰らないという状態。霊媒師は体がもたない。ただ、そんなふうに登場人物の気持ちに成り切り、その思いをダイレクトに表現する編集にするからこそ、主人公の気持ちが伝わり、観客は共感、感動し、涙が溢れるのである。

僕の作品が毎回泣けるという理由は、そこにあると思える。シナリオ通りに映像は繋ぐのは簡単。それを客観的に作業すれば編集はすぐ終わる。でも、それでは客も客観でしか物語を見れないということ。主人公に共感し、物語に入り込むためには、編集時に気持ちをリアルに描き出す編集が必要。また、そのためにはいろんなショットから撮影しておくことも大切なのだ。と、5本目にして自分の映画スタイルを分析。把握しようとしている。ははは。たぶん、多くの人には意味不明だろう。が、自分では納得。もう少し休憩したら、作業に戻る。


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