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明日にかける橋ーキャスティングは運命の出会いを探すこと? [映画業界物語]

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 学生時代。山田洋次監督の映画を見ると「寅さん」シリーズ以外でも父親は前田吟さん。母親が倍賞千恵子さんということが多かった。寅屋関係の他の俳優たちも結構出ている。

 「なぜ、同じ俳優ばかり使うのだろう?」

 当時は疑問に思った。が、自分が監督業をするようになって、その理由がよく分かった。信頼できる俳優を使うことが大事だからだ。もし、自分が知らない俳優を起用して水準以上の演技が出来ないと作品全体のクオリティが下がるから。それを監督をするようになり痛感した。

 「寅さん」の場合。寅屋メンバーは毎回、同じ俳優を起用する必要がある。監督もその点は安心。だが、マドンナが毎回変わる。たぶん、山田監督はその人を演出することに専念するためにも、レギュラーメンバーは信頼できる人を起用するのだろう。

 黒澤明監督も同じ俳優をよく使う。三船敏郎はもちろん。志村喬、藤原鎌足、笠智衆、千秋実、とまるで劇団のようにメインどころは同じ俳優。これも同じ理由だろう。「赤ひげ」撮影時なら若手の加山雄三と山崎努。ニューフェイスにより力を注ぐことができる。

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 僕も巨匠たちの方法論に学び。毎回、キャストを総入れ替えせず、信頼できる俳優でまわりを固める。観客にとっては「次はどんな俳優が出るんだろう?」と期待するので、僕が学生だったときと同じように「また、あの人か〜」と思われることもあるかもしれない。が、監督がよく知らない俳優を起用して、その人が大人気だとしても、演技が全然だめで作品自体が大失敗になることは絶対に避けねばならない。

 一度でも仕事をしていることが大切。どんなに人気者でも、有名でも、マスコミ評判がよくても、実際仕事をすると、もの凄く面倒な人だったり、わがまま、気まぐれということがある。事務所があれこれうるさく言ってくる。費用のかかることを要求してくる。拒否すると「だったら、出演はさせられない」と言い出す。が、その時点から俳優交代は無理。事務所の言い分を聞かなければならなくなる....という話もよく聞く。

 「朝日のあたる家」でも父親は重要な存在。だから「ストロベリーフィールズ」に出て頂いた並樹史朗さんに御願いした。「青い青い空」は新人たちがメインなので、お姉さん役は「ストロベリーフィールズ」で活躍してくれた芳賀優里亜さんー信頼できる女優さんに御願いした。「向日葵の丘」ヤングパートでも主人公の3人。芳根京子らは初出演だから、まわりを安心できる俳優さんで固めた。例えばー

 お父さんが並樹史朗さん。鯛焼き屋のおばさんが「朝日のあたる家」の斉藤とも子さん。同級生が「朝日の」橋本わかな。町の顔役を「朝日」の岡村洋一さん。他にも以前にお仕事した信頼できる方で固めた。そのことによって、芳根ら若手3人の演出に専念できるようにした。

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 ただ、主人公が毎回、同じ俳優というのはむずかしい。黒澤明監督はほぼ三船敏郎だが、毎回、イメージを変えている。が、それもなかなか大変。通常は毎回、別の人になる。まわりはレギュラー陣でも、主役を変えることで映画自体のイメージが変わるからだ。小津安二郎監督は巨匠だが、原節子、笠智衆が主演するものが多く、どれがどの作品が分からなくなった。

 僕の映画も毎回、主役が変わる。逆にいうと一度、主役を演じた人は続けて出ない。いつか、何年後かには御願いするかもしれないが、続けてはしない。となると、主人公は太田組初参加となるので、その人に時間を費やしたい。まわりは僕のやり方を理解してくれて、僕もその俳優の力を理解し信頼できる人を起用する必要がある。

 今回の「明日にかける橋」でも、今まで一度でも仕事をした人を主人公のまわりに配置したい。現代の撮影は本当にタイム・イズ・マネーだ。何度も何度も芝居をさせることはできない。ということは昔のように現場で新人俳優を鍛えるのではなく、出来る人を起用せねばならないということ。そして、先にも書いたが、現場でトラブルを起こさない人。あれこれうるさく言わない人が大事だ。

 主人公の子分とも言える若手2人は、あの2人で御願いしようと思っている。近々、オファーを出すので、何とかスケジュールが合ってほしい。が、大きな問題がある。その他の常連俳優が結構、引退したり、就職したりしてしまったのだ。俳優業は大変。よほど売れないと食っていけない。年齢もある。「この辺でそろそろ就職しようかな...」という人もいる。結婚して引退という人もいるだろう。或は売れてしまって、もう忙しくて御願いできない!という人もいる。その意味でレギュラー陣も考えねばならない時期に来ている。

 キャスティングは本当に難しい。限られた予算。地方映画。それにしては僕の映画は凄い俳優たちが出演してくれるので毎回、驚かれる。が、その期待が高まり、あり得ない人をもの凄い数リクエストしてくる人もいる。地方映画で有名俳優は2人が限界。応援してくれる人の期待にも答えたいが、一番大切なのは作品に相応しい人。やる気を持ってくれる人だ。

 有名俳優でもギャラの額しか仕事をしない人はお断り。値段に関係なく、命がけでやってくれなければ太田組は勤まらない。毎回、キャスティングは戦いだ。神経が擦り切れるまで考えて選ぶ。その中で運命の出会いを探す。



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