自分らしさって何だろう? 自分しか作れない映画ってどんなだろう?(前編) [5月ー2017]
先日のワークショップ。演技力はそこそこあるのに、大切なものを持っていない俳優たちがいた。個性であり「自分らしさ」である。これはよく言われる「オンリーワン」ということ。俳優で大事なのは替えが効かないということ。「AさんがダメならBさんで行こう」と言えるのは同じレベルの人がいるということなのだ。
三船敏郎の代わりはいない。勝新太郎の代わりもいない。それでこそ俳優なのだ。ま、彼らほどまで行かなくても、同じようなタイプの俳優がたくさんいるのはアウト。これはアイドルでも、歌手でも同じだ。矢沢永吉のような歌手は他にはいない。中島みゆきだって1人きり。
これは映画監督の世界でも同様。友人は言う「映画監督は3つに分けられる」①「映画作家」②「職業監督」③「ディレクター」。「ディレクター」は与えられた作品を予算内、期日内に取り上げて、そこそこのクオリティ作品にする。でも、他のディレクターが撮ってもさほど変わらない。テレビドラマに多いタイプ。
「職業監督」は言い換えるとプログラム・ピクチャー監督。それなりにおもしろい物を作り、それなりの個性はあるが、メッセージ性はない。「映画作家」タイプはその人が撮ると明らかに他の作品とは違うスタイルがあり、個性が強い。メッセージ性が強く、他の監督には真似のできないものを作る。
有名監督で言えば黒澤明、市川崑、大林宣彦というような人たちだろう。俳優と同じでオンリーワン。替えの効かない人たちである。では、どうすればそんな存在になれるのか?
僕が監督デビューしようとしていた時代。そのことで本当に苦しい思いをした。当時、アルバイトをしながらシナリオを書いていた。今でこそ漫画原作の映画は多く、SF作品も日本でも作られているが、当時の日本は文芸作品が中心。SFは邪道。せいぜいミステリーだった。
それでもSFものが好きで、そんなタイプのシナリオを個人的に書き続けていた。が、時代が時代だけに、また僕よりも年代が上の人はSF=子供向けと思い込んでおり、「スターウォーズ」以降、ハリウッドで作られる映画の大半がSFなのに、それを受け入れる人はほとんどいなかった。
僕が書きたいシナリオはアメリカで言えば「ターミネーター」や「ヒドゥン」のようなSFアクションだった。日本の漫画で言えば石ノ森章太郎や永井豪のような作品。朝から夜までアルバイトをして、夜にアパートに戻り、朝までシナリオ執筆。何本ものシナリオを書いた。が、友人のPやカタギの友人に見せても評判はよくなかった。
SF好きの友人には好評だが、他は散々。「お前、才能ないよ」と何度も言われた。理解者は「映画のことはよく分からないけど、それこそ『少年マガジン』や『ヤングジャンプ』に漫画として掲載されても決して見劣りしないよ」といってくれた。そこである漫画雑誌の原作大賞に応募してみた。副編集長審査まで行ったが、最終審査まで行かなかった。
そのときは「何がいけないのか?」分からず。試行錯誤を続けた。僕の力不足なのか? 業界が閉鎖的なのか? 時代がまだ到達していないのか? 答えが見えずに七転八倒していた。が、今考えると分かるのだが、当時の僕の作品。ドラマのレベルとしてはそんなに悪いものではなかった。起承転結。ドラマ文法も次第に理解して、エンタテイメントとしての条件はそこそこ揃っていた。
ただ、足りなかったものがある。個性だ。つまり、ハリウッドならJ・キャメロンが作りそうなB級映画であり、ロジャー・コーマンやスピルバーグがプロデュースしそうな低予算映画なのである。日本の漫画で言えば、やはり永井豪、石ノ森章太郎が過去に描いた漫画。それらと同じスタイル。もっと言えば、それらの猿真似でしかないのだ。
まったくのパクリではない。が、模倣。それらの作品に強い影響を受けた作品だった。「どこかで観たことがある。どこかで読んだことがある。そこそも面白いが、ずば抜けた面白さはない」漫画雑誌の編集者が言った言葉が鋭かった。
「高橋留美子さんの漫画を模倣したラブコメ的なものを描く新人は多い。でも、高橋さんを超える漫画でなければ採用する必要はない。高橋さんに連載を続けてもらえばいいのだから」
その通りだろう。映画化されるされないは別にして、僕のシナリオはハリウッド映画の亜流であり、そんな作品を見なくてもハリウッド映画を見ればいいということなのだ。そう、自分らしさがない。太田隆文作品といわれ、他のとは違う何かがないのなら、現在、活躍中の脚本家に依頼すればいいのだ。
そう考えると、山田太一さん。倉本聰さん。皆、自分のスタイルがある。その上でクオリティの高いドラマを書く。スピルバーグだって、ルーカスだって、ゼメキスだって個性がある。自分らしさがある。では、僕はどうなんだ?自分らしい作品ってどんな映画なのか? どんな物語なのか?
(つづく)
2017-05-02 08:31
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