「明日にかける橋」編集日記 楽しい撮影現場が名作を生み出す? [「明日」撮影]
先の記事に書いた「撮り忘れカット」の話もそうだが、現場での騒動や事件は映画作りに大きな影響を与え、作品クオリティを下げてしまう。例えばスタッフの1人が毎日、怒鳴っていると、他の人たちはうんざりする。怒鳴るのも仕方ないと思う理由があればまだ分かるが、機嫌が悪いとか、自分の仕事がうまく行かないとか、本来感情を爆発させる必要のないところで怒鳴ったり怒ったりする人がいると、現場は本当に荒れてしまう。
ただ、昔の活動屋という人にはそんなタイプが多く、技師が助手を殴ったり、体育会系のノリで、武闘派の人が多かった。さすがに最近はそんな人は減ったし、怒鳴るスタッフも敬遠される。それでもベテランにはまだそんな人がいる。
そんな中で太田組は初期から「怒鳴るの禁止」だ。何より若い俳優たちが多く出演するので、現場でオヤジが大声で「バカヤローー!何やってんだー」と怒鳴っていると、萎縮して芝居ができなくなるからだ。ある演出部チーフもこういう。
「現場が荒んでいると映画も荒んでしまう。いい映画は楽しい現場からしか生まれない」
最近はそれを痛感。だが、現場ではいろんな事件が起こる。用意されるべきものが用意されていない。俳優の機嫌が悪い。あれこれ演出に口を出して来る。関係者でない人が撮影方法に対して文句いう。ふて腐れている奴がいる。あまりに仕事ができない。エキストラが写真を撮って回る。サインをねだる。それを誰も止めない。
そんなことがまわりに影響し、イライラさせられたり、やる気をなくしたり、それが作品のクオリティを下げることに繋がる。いいシナリオがあり、素晴らしい俳優が出演しても、現場に何らかの問題あると作品に影響してしまう。だからいつも言うのだが「反省」が大事。事件や騒動が起きたときは必ず考える。
なぜ、そんなことになったのか?
どんな背景があり、誰が原因を作ったのか?
連絡不備か? 勘違いか?
なぜ他の誰もが気付かなかったか?
それを突き詰めて行く。よく「いつまでも悔やんでも仕方ない。忘れて次に行こう!」という人がいるが、悔やむのではない。反省するのだ。個人の責任を追及するのでもない。原因を突き止めることで、次の現場で同じ失敗を繰り返さないためだ。
なぜ、彼は問題を起こしたのか?
彼は状況を把握していたのか?
何日も寝ておらず意識が朦朧としていたからか?
だとすると、なぜ、何日も寝られない状態が続いたのか?
スケジュールが悪いのか?
では、なぜ、そんなスケジュールなった?
俳優の都合? 製作費? そもそも仕事に向いていなかったのか?
いやいや、体調が悪かった? それとも病気?
こうして考えて行くと原因が見えて来る。同じことが次回は起きないような体制や人選をする。そして、せめて人的要因で事件が起きないようにする。事前に文句の多い俳優、傲慢な事務所はキャスティング段階で避ける。現場で怒鳴る昔の活動屋タイプのスタッフも呼ばない。問題行動を取る人が1人いるだけで、現場の空気が悪くなり、イライラさせられ、いろんなミスや事件に繋がる。ただ、よくスタッフがこう言ってくれる。
「太田組は和気あいあいで楽しい。だから、また参加したい!」
嬉しい話だ。それは毎回反省して、同じ失敗を繰り返さないようにしている成果が上がっているということ。怒鳴ったり、事務所の力であれこれ無理難題を言って来る俳優を呼ばないから。それが今の太田組チームとなった。作品クオリティの高い映画を作る環境作り。大切なことなのだ。
「明日にかける橋」完成試写会の日程が決まりました。12月に地元先行で上映会! [告知]
「明日にかける橋」完成試写会の日程が決まりました
12月23日(土)磐田市 福田中央交流センター①14:30②18:30
12月24日(日)袋井市 メロープラザ①10:30②14:30 ③18:30
12月25日(月)袋井市 月見の里学遊館①14:30②18:30
12月27日(水)森町 ミキホール ①9:30
1席1500円
=監督や出演者の舞台挨拶も予定されていますが、日程はお待ちください。=
尚、チケット購入方法等、詳細は後日決まり次第お知らせ致します。
全国での公開は来年夏ー秋以降に映画館上映を計画中です。
詳しくは「明日にかける橋」HPをご覧ください!↓
http://ffc2017.main.jp/
「明日にかける橋」編集日記ー恥ずかしい話。撮り忘れたカット?! [「明日」編集]
今回は情けない話を書く。こんな話を監督という人たちはしたがらないが、読者には映画監督を志す人もいると思うので、書いてみる。
編集で素材を見ていると、「あれ? 何であのショットの映像がないんだ?」と気付くことがある。そして探す。「まさかまさか? あーー」と、撮り忘れカットがあることに気付く。そんなときは本当に落ち込む。自分を殴りたくなる。同じ失敗を繰り返さないようにその原因を考える。もちろん、全ての最終責任は監督だ。役者が下手でもその人を選んだ監督が悪い。力及ばずのスタッフがいても、選んだ監督の責任だ。が、どんな状況で問題が起きたか?事細かに反省することは大事。その前に撮影に至る進行をまず説明しよう。
まず、現場をロケハン。どこからどんなふうに撮るか?そのあとに紙に図面を書いてどこにカメラを置いてどんな風に撮るということを考える。そしてカメラマンと打ち合わせ、それが可能かどうか? もし難しければどうすればいいか?相談。さらに現場でカメラを置いてファインダーを覗くのだが、想定していた絵とは違う構図になることもある。そのときはまた微調整する。
そんなふうに最初決めた通りに行かず、また、天候やロケ場所の状態がロケハン時とは変わっていることもあり、その場その場でより良い方向に変更して行かねばならない。急に「**時までに終わってほしい」場所を貸してくれる人が言い出す事もある。俳優事務所から「早めに次の仕事に行かせたい」と理不尽なことを急に言われることもある。対応するには、当初の予定を変更、時間がかからないカット割りをせねばならない。そんな中で撮り忘れるショットが出てくる。
それ以外にも撮影前に事件が起きたり、決まっていた俳優が突然に出演できなくなったり、いろんなことがあって、そちらの対応に時間が取られたために、撮影準備が疎かになることもある。現場がもの凄い暑さや寒さで頭がまわらないとき。困ったちゃんが騒動を起こして皆、イライラさせられたり。まあ、現場というのは戦場なので、ものごとを冷静に考えられる場所ではないのだが、そんなことがいくつも重なり、撮らねばならないカットを撮られずに現場を移動してしまうこともある。まあ、だからと言って許されることではないが、それが要因となる。
また、撮り忘れとは言わないが、編集時に素材を見ていて「あーここのアップほしいなああ。何で撮ってないんだ!」と思うこともある。現場では「これでいい」と感じたのだ。それが冷静に編集室で集中して考えると必要だと分かる。なぜ、分からないか?先に上げた状態が原因。
では、撮り忘れカット。どうすればいいのか? そのシーンを今から撮る訳にはいかない。かなりな予算が必要。俳優やスタッフはすでに次に仕事をしている。例え全てをクリアーしても、もう俳優たちはあのときと違う顔をしている。あの夏のあの時期だけ、彼ら彼女らは物語の登場人物になっていたのだ。今から戻れといっても不可能なのだ。特に若い俳優はそうだ。数ヶ月で成長。大人の階段を上がってしまう。
それは編集で何とかするしかない。そのカットがないだけでそのシーンが成立しない場合もあるが、別テイクから別のシーンからカットを探したり、繋ぎ方でそのカットがなくても成立させるとか、とにかく観ていて違和感ないように繋ぐのだ。そんなことがあるので、毎回、編集はドキドキの連続。
「あーーあのカット.....フォルダーにない.....もしかしたら.....」
とカメラマンに電話。「いえ、僕は撮った記憶があります。**のフォルダーにあるかも?」と言われ確認。「あったーーーーー!」というスリルとサスペンスの連続なのだ。
今回もすでに1カ所だけ撮り忘れがあった。本当に情けない。理由はともあれ僕の責任。こんな恥ずかしい話、ほとんど監督たちは外部の人にしないが、どこのチームでもときどきあること。ハリウッド映画でも観ていて「あれ?」と思う事がときどきある。それは似たようなことが現場であったはずだ。
そんなミスを徹底して探した記事を掲載した映画雑誌があった。そして世界で1人だけ、そんなミスを発見できなかった監督がいたそうだ。それが日本の黒澤明。その理由はラッシュを観て少しでもおかしいところがあれば撮影をし直したそうだ。それをするためにはどれだけの費用と時間と労力が.....と思うが、だからこそ天皇と呼ばれた監督なのだろう。