俳優の魅力を引き出す。挑戦させる。それこそが演出。=現場で怒鳴るのが映画監督ではない? [映画業界物語]
俳優の魅力を引き出す。挑戦させる。それこそが演出。
=現場で怒鳴るのが映画監督ではない?
映画監督というと現場で怒鳴っている怖い人。俳優に演技指導する人と思われがちだが、それは違う。監督に演技経験はない。そんな人がなぜ指導できるのか? 指導ではなく、希望を伝えているのが正解。「この場面はこう演じてほしい」という希望。あるいは客観的に芝居を見ていて、足りないもの。伝わりにくい部分を指摘する。
ただ、僕は現場で「違う!」といわない。俳優に「そうじゃないだろう! それでもプロか?」と怒鳴ったりしない。というのは怒鳴ったからと、演技が急に良くなるものでもないし、そんな演技をする俳優を選んだのは監督なのだから。選び方が間違っていたということになる。
そもそも、シナリオをしっかり読めば、役のことは全部分かるし、どのように演じなければならないか?も想像できる。なのに現場で監督に「違う」と言われたら、演技ではなくシナリオを読む力がないということ。
太田組の場合。撮影前、衣装合わせのときなどに、俳優に役柄を説明をする。モデルになった人の話とか、その役に込めた思い。それが俳優さんにとって大きなヒントになる。彼ら彼女らは小さなことでも、そこから広げて自分のものにし表現してくれる。そして資料。1989年の物語なら、当時のヒットソングが入ったCD。コマーシャルが入ったDV D。そして芝居の参考になる映画。それらを宿題として渡す。
そして他の監督のように現場であれこれ言わない。なぜ、それが可能なのか? 実はシナリオを書く段階で俳優をイメージする。その俳優の魅力、特徴、キャラ、思い、得意技等を分析。出演映画を徹底して見る。その上で役を考えて、書いていく。ある意味で当て書きに近い。劇団方式とも言える。
すでに仕事をした俳優の場合はより情報がある。だが、その俳優に合っただけでなく、過去に演じたことのない役や芝居にする。俳優はチャレンジャー。新しいことに挑戦したい!という気持ちが強い。何度も演じた役や芝居だと120%の力が出ない。「これ、私にやれるかな?」と思うくらいの役にファイトが湧く。常連さんには、そんな役を考える。
劇団の場合。メンバーを理解しているライターが、それぞれの劇団員の個性に合わせて役を考えるが、それと同様のやり方。新人の場合は出演作を見ることはできないが、オーディションやワークショップで把握する。通常、この段階ではすでにシナリオができているので、いい人材がいると、その俳優に合わせてその役を書き直し、その人の魅力が出るようにする。誤解がないように書くが、それは実力や素質ある俳優に対してだ。それが感じられない役者のためにする訳ではない。
つまり、全員がオートクチュールの服を着るようなものだ。大きすぎたり、丈が足りない服=(役)も着こなさねばならないのが俳優だが、最初から、その人に合わせた服(役)なら着やすいし、動きやすい。そして誰が着るより、映える。よく「太田監督の作品に出る俳優は輝いている」と言ってもらえるが、それが理由だ。現場に入ってからいくら怒鳴っても演技は良くならない。撮影以前に俳優の魅力や特徴を把握、それを引き出すことこそが「演出」だと考える。
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