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「明日にかける橋」脚本はどのようにして書かれたのか? =物語を机の上で作ってはいけない? [映画業界物語]

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「明日にかける橋」脚本はどのようにして書かれたのか?①
=物語を机の上で作ってはいけない?

稚内の映画祭で「明日にかける橋」を見てくれた方から訊かれた。

「監督はあの感動的な物語をどうやって考えたんですか?」

なので「バック・トウ・ザ。フューチャー」を観た時に近未来に行く話というのに衝撃を受けていつか自分でも作りたい!と思っていたんですよ。と答えた。が、実はこれ。答えになっていない。僕が答えたのは「物語を考える」きっかけに過ぎない。具体的にどうやって「明日」の物語を考えたかが説明されていない。

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というのは、非常に難しい部分がある。まず、監督というのは撮影現場のことはよく覚えているが、シナリオを書いていた時のことはあまり思い出せない。ある種、霊が降りてきている状態で、イタコの霊が書いているような感じだからだ。編集も似たようなところがある。それでも少し思い出してみる。山田先生の場面は実際の経験だ。僕の高校時代に本当に「山田先生」と言う嫌な教師がいて、映画と同じセリフを言った。

「勉強は自分を鍛えるためにするんだ!」

当時17歳の僕は「違う!」と思ったが、明快な反論ができなかった。が、それから長い人生を生き、山田先生の指摘が間違っていることを痛感した。実際に大手銀行や証券会社は倒産した。不況でリストラ。正社員になれない人も増えた。何より高校時代の勉強が役に立った試しがない。

「今なら山田に反論できる!」

と思ったが、当時の彼は30前後。それから39年。彼は70歳くらい。生きているかどうか?分からない。生きていても、当時のことなど覚えていないだろう。僕のこともまず記憶にないはずだ。もう、ボケているかもしれない。教師も辞めているだろう。そんな人に抗議しても無意味。だったら、いつか映画にしようと考えた。

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それと前作の「向日葵の丘」主人公・多香子(常盤貴子)も「明日」の主人公・みゆき(鈴木杏)と同じように両親と対立している。前作で多香子は最後に母(烏丸せつこ)と和解する。

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が、父(並樹史朗)とは対立したまま終わる。そこで今回は娘と父との和解をテーマにした。そこでタイムスリップが活きてくる。父(板尾創路)はみゆきを実の娘とは気づかずに本音を話す。

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みゆきも父の謎の行動を突き止めようとして、父の愛を知る。タイムスリップしなければ父がストレートに娘への愛を語る展開を見せるのは難しい。それが今回は可能になった。また、寺山修司の「田園に死す」等の昔の自分に出会うという物語も以前から興味があった。大林宣彦監督の「はるかノスタルジー」も実はその種の映画である。

夢多き子供時代の自分。現実にぶつかり、希望をなくし心傷ついた大人の自分。それが若き日の自分に励まされることはないだろうか? 昔の日記や小学生時代の作文を読んで、小学生時代に書いた絵を見て、昔の友人の話を聞いて

「そうだ。俺はそんなことを夢見ていたんだよな....」

と思い出したことないだろうか? 悩んだ時、苦しい時、自分を励ましてくれるのは昔の思いや夢であったことはないか? それを物語にした。未来が見えなくて葛藤している高校時代のみゆきが現実に押し潰されている現代のみゆきを励ます。

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「里美先生からの伝言。自分の手で未来を変えて!」

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そう、あの頃はそう思っていた。いつしか諦めてばかりいる。あの頃の輝くような思い、今もどこかにあるはずだ。みゆきは若き日の自分に励まされて走り出す。あの場面もそんな思いから生まれたものだ。だから、物語を作るというのではない。学生がシナリオを書くとよく

「主人公がいる」=>「可愛い子に出会う」=>「恋を邪魔する奴が現れる」

とか机の上で物語を作ろうとする。だが、それでは観客が共感する話にはなりにくい。僕の場合はそんな思いをいくつも寄せ集めて、それを物語で縫っていく方法を使う。だから、本当のことを言うとタイムスリップをやりたかったのではなく、「家族の絆」物語を描くのに、タイムスリップを持ち込めば、単なる家族物語でないハラハラドキドキの映画になると考えたのだ。そしていつものテーマ

「幸せって何だろう?」

その答えを物語を通じて探す。父(板尾創路)は子供達を一流大学に合格させ一流企業に就職させることだと信じた。教師たちもそう思っていた。が、バブル崩壊で砂上の楼閣であること痛感する。そんな中でお金や名誉やブランドではなく、家族がみんな健康で、みんなで花火を見上げることができること。それもまた一つの幸せではないか? それを伝える物語を組み立ててみた。まだまだ、いろいろあるが、そんな風にして「明日にかける橋」はできている。


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