映画祭は楽しい。でも、最悪の思いをする映画祭もある=そこに愛はあるのかい?< [映画業界物語]
映画祭は楽しい。でも、最悪の思いをする映画祭もある
=そこに愛はあるのかい?
先日のわっかない映画祭は本当に素敵なスタッフの方々の熱いもてなしを受け、楽しい時間を過ごさせてもらった。が、そんな楽しい映画祭はむしろ少数派で、2度と行きたくない!というものも多い。
数年前。ある映画祭に招待された。主催者はなかなか映画愛がある人で、僕の映画を映画館に観に行った上で
「ぜひ、うちの映画祭で上映したい!」
と映画と共にゲストとしても招待してくれた。が、そこでいろんな思いをすることになる。映画祭ではそんなゲストと地元映画ファンが交流を持てることが、いずれにとっても楽しみである。監督やスタッフ。俳優は、なかなか一般の映画ファンの感想を直接聞くことがない。ファンはプロの人たちにいろんな質問をすることができる。
でも、その映画祭。いろんな映画が上映されるが、とにかく客が少ない。150人のホールに10数人。そして映画祭のレセプションとかオープニングパーティとかはなく、上映が終わったら関係者数人で近所の居酒屋に飲みに行くだけだった。主催者が中心となり、映画祭の常連客7人くらいのグループになり
「太田監督もご一緒にいかがですか?」
と呼ばれた。だが、飲み会が始まっても、それぞれが何者であるか?の紹介がない。皆顔見知りだから? さらに映画祭で上映される作品の話は出ず。
「最近のヨーロッパ映画はどうだ?」「***は面白かった」
というような話題が続く。主催者は黙って飲むばかり。ゲスト監督は2人いたが紹介もしてくれない。何だか、地方の映画サークルに間違って参加してしまったような違和感。その内にようやく質問を受けた。
「太田監督はどんな映画を撮っているのですか?」
ま、僕は誰もが知る有名監督ではない。でも、映画祭のゲストで呼んで置いて、その常連客が「あんた誰?」と聞くようなものだ。その日、会場で配られたパンフレットには僕のプロフィールが載っていた。それを読めばいいのに、と思ったが説明した。「朝日のあたる家」というのが最新作だと詳しく話すと
「その手の社会派映画ばかりを撮っているんですか?」
と質問が続く。そんなことから話さねばならない? そもそも映画祭に毎回参加する常連なら、事前にHPでゲストを調べ、プロフィールや作品くらいチェックするのではないか?その方が本人に会ったときに、いろんな話が聞ける。
僕のように無名の監督でも、その作品に出た有名俳優等の話を聞くこともできる。撮影現場の話。現代の映画界の様子。相手がどんな監督だろうと、映画ファンなら聞きたい話がたくさんあるだろう。なのに、何も下調べはなく。監督自身にプロフィールを訊く。僕だけではない。もう一人の監督も同じ扱い。結局、それ以上の質問は出ず、僕らの他の作品についても何も聞いては来ない。また最近見た映画に話題が戻った。
「あなたたちには興味ありませんから!」
と言いたいかのようであり、映画祭のゲストではなく、映画サークルに参加した新人のような気分になる。翌日も上映後には飲み会があった。別のメンバーだが、同じ展開だった。その日は「どんな映画を撮っているんですか?」ではなく
「お生まれはどちらですか?」
と訊かれた。大学の合コン?のような質問が続き。「ご兄弟は何人?」そんなこと映画祭と関係あるのか!とため息。その後も一切映画の話は出ずに終わった。全て地元の話。
「地元の***さんが最近、***して.....」
という内輪の話題に終始。僕は2時間黙ったまま、ひたすら酒を飲んでいた。これなら1人で飲んだ方よかった。そして2日共、割り勘。大きな映画祭ではない。飲み食いは自腹なのは理解する。が、その会に監督たちを誘う意味があったかのか? 「遠くから来てもらったんだから、監督たちの分は俺たちで払おう」とは誰も言わない。それどころか、誘っておいて飲み会中、無視し続ける。ホスピタリティはゼロ。
「映画祭のオープニングから参加、3日間滞在してほしい」
と言われて来ている。もちろんギャラもなし。それでも映画ファンたちとの交流を連日、望んでいるのだと考えていたのだ。が、主催者も常連客も自分たちで盛り上がるだけだった。
ようやく3日目。僕の映画が上映される。客席はほぼ満員。各地でヒットしていたので噂を聞いた人が集まったのだ。飲み会に参加していた映画祭の常連客も来ていた。上映が終わってロビーにいると、その内の2人が近づいて来てこう言う。
「太田さん。あなたの映画は好きになれませんでした」
そして、延々と映画の問題点を語り出した。ただ、その指摘。ほとんどが外れている。勘違いや理解不足が理由。そこを説明しても
「ああ、そうですか〜それは見落としたなあ」
ということもなく
「でも、***のシーンはおかしいですよね」
と切り返してくる。とにかく否定したいようだ。結果、指摘は全て誤解によるものだった。が、彼は難しい顔をしたまま
「まあ、次の映画には期待していますよ」
と去って行った。「2〜3本映画撮った位でいい気になるな!」という感じだ。僕もいろんな映画祭に呼ばれたが、関係者の多くからこんな扱いをされたは初めてだった。ゲストが来ているのに内輪の話しかしない。招待客に興味を持たない。常連客がゲストを批判。それも全くの当て外れ。
また、飲み会メンバーも1日目は映画オタクのような人たちばかり。2日目は映画に興味ない人だらけ。いずれもホスピタリティが感じられない。主催者は真面目でやる気のある映画青年だが、消極的でホストの役割が果たせていない。
だが、次第に見えて来た。映画祭に一般の客はあまり来ていない。オタク・タイプが多い。その人たちが常連となり、主催者と親しくなる。ズケズケとものをいう。だから、ゲストが嫌な思いをする。打ち上げにも参加せずに帰る監督もいた。
また知人から、その町では他県から来た人をあえて無視するという市民性もあると聞いた。特に都会もんには舐められたくない。だから、飲み会でも皆、あんな態度を取ったのだ。それらがミックス。年々、観客が減る。一度来たゲストは二度と来ない。ということのようだ。映画祭は全国各地で開かれている。しかし、本当の意味でうまく行っている映画祭は少ない。それは主催者が
「映画祭とは何か?」
を理解せず、勉強せず。単にホールを借りて映画を上映するのが映画祭だと勘違いしている人たちが多いからだ。その映画祭でもそうだが、ゲストに対するホスピタリティがない。歓迎もしない。あえて無視したりする。
先日の熱海国際映画祭も、新聞記事になるような事件を起こしている。参加した人に聞くと、まともに映画上映もされず、散々だったという。会場はホールや映画館ではなく会議室、カーテンの間から外光が入り、スクリーンが見辛い。それを上映途中にスタッフが慌てて目張りしていたという。
明らかな準備不足。映画祭ではなく上映会だ。映画愛が感じられないと嘆いていた。挙句の果てに観客動員数を水増しで報告。儲かったかのように見せる。そもそも映画愛がなかったのでは?映画祭で大切なのは、映画ファンが喜ぶイベント。映画関係者が参加してよかったと思う対応。旅館やホテルと同じ。
「また、泊まりに来よう。来年も来たい!」
ゲストも観客も、そう思ってもらえること。まず、主催者自身が海外の映画祭等にも参加。学ぶことから始めるべきなのだ。単なる町おこしイベントでやってはいけない、まずそこに映画愛があるのか? ホスピタリティがあるのか? 考えてほしい。
2019-06-19 07:53
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