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映画監督の仕事とはどんなものか? =俳優の力を引き出すこと? [映画業界物語]

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映画監督の仕事とはどんなものか?
=俳優の力を引き出すこと?

昔の日本映画ではテーブルを挟んで会話するシーンを真横から撮影するものが結構あった。それが一番楽だから。カメラを2人の真横に置いて俳優が喋る。それを延々と撮れば終了。だが、それでは俳優の顔は真横からしか見えず、表情が感じずらい。登場人物の気持ちが客に伝わらない。でも、早くて楽なので、その手の撮り方をする映画が多かった。

ハリウッド映画ではその種の場面。必ずカメラを真横。俳優Aの正面。俳優Bの正面に置いて撮影。登場人物の表情がよく見えるショットを撮る。が、それだとカメラ位置を変えて3回撮影せねばならず、時間も手間もかかる。でも、それは大切なこと。僕はそのハリウッド方式で毎回撮影する。が、それだけではない。俳優Aと俳優Bのどちらの表情を最初に撮るか? それも大事なことだ。

例えばAさんの表情を撮る時はBさんの表情は映らない。が、芝居はしなければならない。そこがポイント。もし、Aさんが新人で経験値が低ければあとに回した方がいい。つまり、ベテランのBさんを先に撮ることで、Aさんは自分が映る前に何度かカメラに映らない芝居をせねばならない。それが練習になり、Aさんを撮影する際にはエンジンがかかっていい芝居ができる。

でも、そうでない場合もある。「明日にかける橋」食堂で母親役の田中美里さんと娘の鈴木杏ちゃんが会話する場面がある。ここはとても大事なシーンで、美里さんが祖母の話を延々とする。杏ちゃん演じるみゆきはそのことで大きな心境変化を持つ。さて、美里さんと杏ちゃんのどちらを先に撮影するか? どちらも超演技派。いきなり芝居をしても高得点を取る女優さんたち。

そんな時はそれぞれのテンションや体調を見る。何度か練習できた方がエンジンがかかる。それでいうと杏ちゃんはその日、食堂の前の場面をすでに撮影。エンジンがかかっている。美里さんはその日、最初の芝居。通常なら杏ちゃんから先に撮影、美里さんは少しエンジンがかかってから撮影した方がやりやすいだろうと考える。

が、その日の美里さんはかなり気合が入っていた。その会話場面がとても重要であることも把握、物凄い練習をして来ていること感じた。もう出来上がっている。何度かリハしてから...というレベルではなく、最初からエンジン全開!というところまで自分を持って来ている。カメラ位置的には杏ちゃんを先に撮った方が色々都合いいのだが、美里さんを先にお願いした。

もちろん、先でなくても素敵な芝居をしてくれるのは間違いない。が、どんな素晴らしい役者でも同じ芝居を繰り返すと新鮮味がなくなる。芝居は完成してくるが新鮮さも大事。そこで美里さんを先に撮らせてもらった。カメラの移動に手間がかかるので演出部は「えー?」という不満顔だったが、美里さんはすでに「さあ、勝負!」というところまでテンションが上がっている。

その判断は正解。美里さんは長い長い長台詞をNGなし、一発でこなした。台詞を聞いている僕が「なるほど、本当にその通りだよね...」と思ったほど。いや、僕が書いた台詞なのだが、もはやそれは台詞ではなく美里さんが心に感じたことを言葉にしたものになっていた。そんな風に実力ある俳優さんも、より実力を発揮しやすい環境づくりをすること。それも監督の大事な仕事だと考える。



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