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映画のキャスティング。Pが決定権を持つと名作ができない理由? [映画業界物語]

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映画のキャスティング。Pが決定権を持つと名作ができない理由?

キャスティングのことを書いたら結構、好評だったので、もう少し書いてみる。映画のキャスティングというのは基本、そして日本では伝統的に監督がするものだ。P(プロデュサー)もあれこれ意見を言うが、最後に決めるのは監督である。それがテレビの場合はPが決定権を持つので、勘違いPは映画でも自身で俳優を決めようとすることがある。

しかし、それが諸悪の根源。Pがキャスティング権を持つことでより良い映画は難しい。今回はその話をする。そもそもキャスティングとは、現場で共に物語を形するための俳優を選ぶ作業だ。役に合っていることはもちろん。問題を起こさない。協調性がある。時間に遅れない。評判がいいと言うことも考慮する。

人気があるのを勘違いして、勝手なことをする俳優も気を付けなければならない。また、気が合う。合わないと言うこともある。演じるのは俳優同士だ。その相性が悪いといい芝居にならない。もちろん「嫌な奴だな」と思っても我慢して演じることも大事だが、それはどこかに出てしまう。そんな細かい部分も含めて監督は俳優を選ぶ。

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監督は俳優たちと対で接して、思いを伝え、それを体現してもらう仕事だ。俳優たちのことをよく知り、見ている。信頼関係の大切さ。知名度はなくても実力がある俳優を見抜く。俳優の特性を見抜く。そんなことを何年も続けており、俳優という人種を知り抜いている仕事だ。だから、キャスティングができる。

一方、Pはその種の経験値はない。撮影ではカメラの後ろで見ているだけ。演技について指示したり、俳優とコミニケーションする必要はない。朝、会った時に「調子どう?」と声をかけるくらいなものだ。そんな立場なので、キャスティングをするときには監督とは違う視点で俳優を選ぶ。

知名度があるかどうか? 興行には大事だ。人気がありファンがあれば映画館に多くが来てくれる。レギュラー番組を持っているか? 例えばタレントとしても活躍している俳優であれば、レギュラー番組で映画の宣伝をしてもらえる。あるいは大手の事務所かどうか? 大手はテレビ局に対して力があるので、所属タレントが出ている情報番組等で映画の告知をしてもらえる。


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そういう俳優が映画に出ることでプラスになるということをPはよく考えがちだが、協調性。相手の俳優との相性。等々まで気付かない。それらこそがキャスティングで一番大事なところなのに、それは分からない。なぜなら、Pは本来、制作費の管理や興行宣伝が仕事の中心であり、撮影現場のこと。俳優との対峙をしないからだ。

つまり、それらが分からないPという人種がキャスティング権を持ち俳優を選んでしまうと、人気があるだけで役に合っていなくても選ぶ。大手事務所所属を多く選ぶ。宣伝に協力的な俳優を優先する。等々の尺度で選んだ俳優ばかりになってしまう。当然、現場は混乱する。スタッフは職人だ。「素晴らしい作品を作ろう!」という人たち。会社の思惑や収支なんて考えないアーティストだ。

「この役。この俳優じゃないんじゃないか?」

すぐに気づく。ああ、事務所が***か?Pが決めたんだな。そういう作品ね?今回は!と思われてしまう。いいものを作る気がないんだと解釈する。だったら、そこそこの力でやればいいね?彼らは熱い思いに感銘を受け動く人たち。金儲けや会社の思惑のためには真剣にはならない。監督もやり辛い。

「この役はこの俳優じゃないんだよなあ」

そう思いながら演出しても力が入らない。また、人気があるからとメインの2人を気が合わない同士が選ばれたら大変。演出以前に2人のご機嫌取りが仕事になる。俳優側からしても同じだ。

「私を選んでくれたのは監督ではなく、Pなんだ」

と、Pにばかり媚びへつらってしまう。或いは

「Pが私を選んだのは演技力じゃなくて事務所が大手だからなんだ」

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そう思うと、やる気をなくす。悲しくなる。監督というのは俳優の底力を引き出す仕事でもあるのだが、自分がよく知らないPが選んだ俳優から力を引き出すのは難しい。そもそもが監督はキャスティングをさせないPを信頼しない。多くは恨んでいる。

「そんなことでいい作品ができると思ってるのか?バカ〜」

そんなPが選んだ俳優を輝かそうとは思わない。寿司経験のない人が魚市場で仕入れてきた魚を持ってきて、寿司職人に

「さあ、美味しい寿司を握ってください!」

というようなもの。家を建てたこともない会社員が大工道具を選んで大工さんに「さあ、素敵な家を建ててください」というようなものだ。

「ノコギリないだろ!」

ということが頻発する。黒澤明監督は言う。

「一度も仕事をしたことのない俳優とは仕事はできない」

それは本当だ。その俳優のことを知り、魅力を感じ、実力を知るからこそ、その俳優の力を引き出すことができる。俳優側から考えても同じだ。

「私の力を認め、魅力を感じているから、この監督は私を選んでくれたんだ!だから、頑張ろう」

と思う。そんな俳優の心理までPは分からない。現場で俳優たちと対峙していないからだ。魚を見極められない。大工道具を使ったことない。というのと同じ。もちろん、興行や宣伝は大事だ。プラスの俳優を選ぶことも必要。でも、提案はしても決断は現場と俳優を知る監督がするべき。


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映画作りはビジネスでもあるが、興行だけ考えていては素晴らしい作品はできない。大事なのは俳優への愛だ。そして理解。その意味でPはそれらを持ちずらい立場にいる。そんな人がキャスティングをしても、いい作品はできない。この数年で

「なんで、この原作で、この人気俳優陣なのに面白くないのかなあ」

という映画を思い出すと、ほとんどがPがキャスティングしたものだ。キャスティングは映画の出来の70%を決めるというが、まさにその通り。Pを否定するのではない。彼らが活躍すべき場は他にある。日本映画では監督がキャスティングをする。それが日本映画の伝統であり、重要なことなのだ。

だから監督である僕は映画のキャスティングー全て自身で決める。その俳優の実力を知り、愛を感じる者を選ぶ。脇の1人に至るまで。それが大事だと考える。



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