映画製作でキャスティングに口出しする市役所? 「主演を交代させろ」??? ーB君の経験談からー [地方映画の力!]
映画製作でキャスティングに口出しする市役所? 「主演を交代させろ」???
ーB君の経験談からー
「自治体では映画製作ができない?」という記事と「プロデュサーはキャスティングをしてはいけない」という記事。両方とも好評。そこで両方の話題が入った「自治体がキャスティングに口を出したことで、トラブル続出!」の話を紹介する。
後輩監督のB君。彼がある地方から依頼された故郷映画。市民が主体となって実行委員会を作り製作費を集めた。途中から市役所が参加した。が、費用は一切出さず「協力」という立場。それが非常にまずい状態を作る。金は出さないのに口は出すということ。担当の職員たちは映画製作の経験はない。にも関わらず、あれこれ言い出した。
提案することにマイナスが多いのに、プロジェクトを推進してきた市民団体が反対しない。皆、市役所を揉めたくない。また、役所の提案が間違ったものであっても、映画作りを知らない市民には「それもいいんじゃないか?」と思う人もいたようだ。
ある日、大きな事件が起こる。すでに決定している主演俳優を役所側が変更しろと言ってきたのだ。その町、出身の俳優を主役にしろと言い出した。
製作だけでなくキャスティングにまで口出しをする。とんでもないことだ。映画のキャスティングは監督の仕事。役に合うかどうかだけではなく、相手役との相性。人気、知名度。考え方。思い。様々な面を考慮してB君が決めた。以前に仕事をした若手の人気俳優。本人も出演を快諾。すでにマスコミ発表も行っていた。なのに担当職員はいう。
「降りて貰えばいいんですよ。うちの街ではまだその人が主演することは知らない人が多いし、大丈夫です」
B君は憤る。「うちの町」の問題ではない。一度、依頼し承諾した相手に「降りろ」なんて常識的に言える訳がない。「うちの町では知らない人が」なんて関係ない。マスコミ発表をしたのだ。全国に伝わってる。
それを役所の勝手な提案のために主演を下ろすなんて、俳優にも失礼。撮影前に降ろされるなんて名誉問題だ。所属事務所から訴訟を起こされてもおかしくない。もし、役所でも一度決まったことをひっくり返したら大変なことになる。が、担当者は自身の職場に置き換えて考えることをしない。
「**の方がこの町では知名度があるし、市民は喜びますよ。すでに事務所に交渉してOKももらっています」
何勝手に交渉してるんだ!?金も出さない。映画製作も知らない役所がどういうつもりだ!
「だから、今、そのことを伝えて、監督にも同意してもらおうとしているじゃんないですか?」
理不尽としか言いようがない。にも関わらず実行委員の市民たちは反対しない。やはり役所と揉めたくないのだ。B君が1人反対した。数日後、製作会社のプロデュサーから言われた。
「私のところ役所から連絡があり、説得してくれと。監督は自分がよく知る俳優と仕事をしたいだけだ。そんなことより、わが町出身の知名度がある俳優で行って欲しいとのことです。私もそうした方がトラブルにならずいいと思いますよ〜」
B君は完全に切れた。「よく知る俳優と仕事がしたいだけ」だと?それがどれだけ大事か分かっているのか? 仲良しサークルのノリで映画作りをしていると思っているのか? 何も分かってない奴がPに圧力までかけてくる。許さない!担当者と対決した。
ー地元出身俳優がなぜ、今回の役に合っていると思うのか?
「彼は器用だし大丈夫ですよ。僕がシナリオを読んでも彼で行けると思いましたから」
ーシナリオというものを、これまでどのくらい読んでいるか?
「今回が初めてです。シナリオなんて日頃読む機会はないですから!」
ーその地元俳優の芝居で1番好きなものは何か?
「彼の映画や芝居は観たことはないですよ。でも、本人はよく知っています。いい人ですよ!」
だめだ〜。確かにその俳優はそこそこ有名だし演技派だが、個性が強過ぎる。今回の映画の主役とはタイプが違う。それにシナリオを読んだこともない人間が「行ける」と思いこみ。その俳優の演技も見たことないのに「行ける」と判断すること自体がおかしい。B君は次第にばからしくなってきた。
今回の企画はとても興味があり。かなり自腹を切って参加している。監督料も非常に安い。終わった時には借金の山となるだろう。でも、絶対にいいものができる!と市民と頑張ってきた。なのに、途中から参加した役所が、映画製作を知らない、シナリオを読んだこともない連中が横車を押し始めた。
これが「別の役で地元俳優を入れろ!」というのなら、まだ分かる。が、主役をその人にすると映画は完全に失敗する。監督であるB君にはそれが分かる。けど、役所の人たちには想像できない。
みすみす失敗作となるのを分かりながら、自分がふさわしいと思わない俳優を使い、素晴らしい作品になることはない。実行委委員たちと役所の担当者を呼んで説明をした。なぜ、主演が彼ではダメなのか? すでに決まった俳優でなければならないか? 30分に渡って熱弁した。
もし、それでも地元俳優で!というのなら、B君は監督を降りるつもりだった。いいものを作れないことが分かりながら妥協して進めるのは市民への裏切りでもある。話し終えた時、市民のおばちゃんがこういった。
「監督が選んだ俳優さんで行こうよ! そこまで情熱を持って選んだ人なら、その俳優さんがいいと思う!」
次々に市民たちは「賛成!」と手を挙げ、B君に賛同した。役所側は渋々地元俳優案を撤回した。その後、映画は完成。大ヒット。実行委員のあるおばちゃんとB君は映画館の近所でお茶を飲んだ。おばちゃんはいう。
「そういえば地元出身の**さんを主演になんて話があったわねえ。今、考えるとありえない〜って感じ。あの物語で**さんなんて想像もできない。やめて正解ね」
B君は分かっている。役所の職員も悪い人ではない。ただ、キャスティングに口を出すのはルール違反。映画の世界では監督がする仕事だ。とても大切な作業であることも知らない。厨房に行き、料理するシェフに、魚の良し悪しの分からない一般人が
「この魚を使った方が美味しい料理になるよ」
と魚を持ち込み、指示するようなものだ。そんなことをする人はいない。でも、映画作りとなると勘違いをする人が不思議と出てくる。餅は餅屋という言葉を忘れてしまう。
その後、B君は別の街で故郷映画を作った。そこでは役所が全く協力をしてくれなかった。そのせいかトラブルは皆無。何事もなく映画は完成した。それが地方で映画作りをする上で大事なことだと気付いた。役所を批判するのではない。映画製作を知らない人が関わると揉めるということをB君は知ったという。映画だけではない他の業界でも言えることだ。
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