マイケル・ムーアの新作「華氏119」何かヘン?どうしたんだろう [映画感想]
マイケル・ムーアの新作「華氏119」何かヘン?どうしたんだろう
「ボーリング・フォー・コロンバイン」以来、どの作品も素晴らしい。社会問題を分かりやすく解説、批判、ラストは感動さえ覚える。そんなドキュメンタリーがあるとは思わなかった。「華氏911」ではブッシュ大統領を敵にまわす作品。そのムーア監督が今回はトランプ批判の映画を作った。
が、引っかかる。トランプ大統領は非常に評判が悪い。ただ、彼を支持する人たちの声に「ん?」というものもある。実はムーアと同じように、アメリカの恥部を描き続けるオリバー・ストーン監督はトランプを支持している。なぜだろう?
また、これまでのムーア作品には多くの人が気付かない、少なくても日本人が知らなかった事件や問題を取り上げ、鋭く斬り込むことが多かった。が、トランプはすでに多くのマスコミが批判している。それを今さら批判することの意味とは、何か決定的な事実を掴んだのか? いくつも気になる点がありながら映画を観た。
お馴染みのスタイルで映画は始まり、ヒラリーではなく、トランプが大統領になったことを当選発表の日の映像を使い見せて行く。が、すぐに話題はトランプ以外に逸れる。フリント市の水道問題。「トランプも同じことをしている!」と展開すると思いきや、延々と水道問題。確かに酷い話。福島と同じ構図。鉛が入った水道水を飲んで、多くが病気になっているのに、市政は「基準値には達していません」と対応を拒む。
だが、その話題はいつまで経ってもトランプに結び着かない。やっとトランプ登場。その町の水道局に遊説中のトランプが訪れたことを紹介。でも、それだけ。話はその後、銃乱射事件に進み、生徒たちが反対運動を起こす話を紹介する。「ボーリング・フォー・コロンバイン」を彷彿とする。
その後、ようやくトランプの話題になるが、先の2つの話とは繋がらない。ヒットラーがいかにしてトップに立ったか?をトランプの言動に重ねて見せて行く。が、これはトランプの問題を描いたものではなく、「危険なトランプに権力を持たせてはいけない」という表現。でも、なぜ、トランプが危険なのか?が描かれていない。
途中で「トランプは人種差別主義者だ」というよく言われることは描かれる。彼を会場で批判した女性たちが係員に連れ出される映像を紹介。数々の問題発言も見せる。が、それだけだ。移民の親子を別々に収容した。親子を引き離した。酷い。という話も紹介されるが、それはトランプ以前から行なわれていたことで、そのことは解決されたというニュースを聞いている。
とすると、この映画で描かれたトランプの悪業は、差別主義者であること。問題発言をしたということだけ。おまけに水道問題の方が圧倒的に長く描かれている。銃乱射事件もトランプとは直接関係ない。なんじゃこれは? 今までのムーア作品とかなり違う。
ドキュメンタリーでも、ドラマでもそうだが、映像というのは演出次第で、取材対象を悪くも、良くも描くことができる。その一番安易な方法は誰もが「悪人!」と思う過去の人物を重ねることだ。よく使われるのがヒットラー。ムーア監督はその手法を今回の作品で使い、
「トランプは差別主義者だ。だから、ユダヤ人を虐殺したヒットラーと同じようなことをするだろう。危険だ!」
と警告する。が、過去の作品のように、細かな事実に切り込み、その被害を描いてはいない。つまり「危険だと思うよ。ヒットラーになるかも?」という予想でしかない。
思い出すことがある。検察が小沢一郎の事務所を捜査。有罪に持ち込もうとしたのに結局何ら問題は発見されず、無罪になった。イメージとして悪徳政治家だと思う人が多いが、実際は問題なかった。特捜部が何ヶ月もかけて調べて証拠がでないということは何もなかったということだ。「ロス疑惑」の三浦一義もあれだけマスコミに「怪しい」とバッシングされながら、結局、無罪。
怪しい=悪人と攻撃するのはアウト。イメージだけで決めてはダメ。同じようにトランプが大統領になり、2年も経つ。その間に彼が行なった悪業をムーア監督は批判すべき。それが描かれていないというのは、何ら発見できなかったということ?
だから、直接関係のない水道問題と銃乱射問題を延々と描いた? あるいは、その2つこそがムーア監督が本当に描きたかったことで、そのネタだけで弱いので、今回はトランプ批判という大看板を着けた? 何だかそんな感じさえする。もし、トランプを批判するなら
「ヒラリーが大統領になっていれば...アメリカはこうなった」
という展開もありだ。「ボーリング...」でも銃社会アメリカと、お隣の銃のない社会カナダを比較したように。だがヒラリーの話は冒頭しか出て来ない。そしてヒラリーを描くと、もっとどす黒い事実が出てくるはず。
ただ、おもしろいのはオバマ批判は出てくる。平和主義者のイメージ。良識ある人気の大統領と思われがちだが、そうではない!とムーア監督は斬り込む。先の水道問題。その町にオバマがやってきてスピーチをするが、その問題を隠蔽しようとする市長を庇い、問題を矮小化するような発言。彼に期待した市民は大いに失望する。
また、オバマは記録的な空爆を許可しており、多くの犠牲者が出ている。さらに、これまた記録的な数の移民を追い返している。これらの事実は説得力あり、オバマの正体を暴くものだ。トランプに対しても問題発言があるとかではなく、「こんな酷いことをやっている!」という事実を暴けばいいのに、それがない。だから、ヒットラーと重ねることしかできないのだろう。
ああ、ヒラリー問題も少しあった。本来、全米で勝ち抜いたのはバーニー・サンダースだったのに、それをすり替えヒラリーが勝利したことになったという指摘もある。が、深く追及せずに別の話題に行く。そしてトランプが不正選挙をしたという指摘はない。「なぜ彼が大統領に成りえたか?」についても追及せず「そこに不正がなかったのか?」も触れない。ということは不正選挙はなく、正式に国民が選んだということだ。
では、なんでこんな映画を作ったのか? トランプの政敵から金をもらった? でも大した違反材料が見つからずこうなった? 或は先に上げたように本当にやりたかったのは水道問題? いずれにしても、これまでの彼の作品とは違い。納得も、驚きも、感動もなかった。
確かにトランプは問題発言が多い。見かけも悪の大ボス風。口も悪い。そもそもビフ(?)のモデルだし。イメージはとても悪い。が、それだけで「悪人 !」と決めつけることはできない。ムーア監督であれば、その先に斬り込むべきなのに、描いていることは、ネガティブキャンペーンと同様のものばかり。なぜ、トランプは北朝鮮を攻撃しなかったか?も描かれていない。
そこが一番のポイント。ブッシュのようにありもしない大量破壊兵器があるといちゃもんつけて戦争すればいいのに、していない。でも、そこにトランプの目的があると思え、そこを追及すると、映画が成立しないからだと思える。
映画を見終えて思うのは、「なぜ、ムーア監督がこんな切り込みの弱いトランプ批判映画を作ったのか?」ということ。「論点が逸れまくる映画にしたのか?」批判にすらなっていない。裏に何かあるはずだ。この映画で「アメリカの正義はまだ死んでいない」とか「日本のマスコミは見習うべきだ」という意見があるが、とんでもない。情報を見抜く力を持ちたい。
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by az5555 (2018-11-07 05:13)