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12月公開の、ある青春映画の感想 「青の帰り道」 [映画感想]

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12月公開の、ある青春映画の感想

7人の若者の青春ものということで、ちょっと躊躇した。自分で何本も青春ものを作っているくせに、青春ものを観るのは苦手。爽やかな友情とか、甘い恋愛が好きになれない。でも、友人からもらった試写状。会場を訪れた。

意外にも、爽やかな青春ものではなかった。かなりハード。悲しく厳しい青春物語だった。僕が撮ったあの作品と少し似ているところがあり、「2008年」から「2018年」までの10年間を描いた物語。ラジオでその時代時代のニュースが流れる。

主人公の7人は高校時代の同級生。仲良しグループ。その内の2人はミュージシャンを目指し、2人の男女は熱烈恋愛関係で卒業後に結婚。2人は不良で大学進学せずに仕事を始める。1人は大学に行き、その後、サラリーマンになる。その内の何人かは故郷の田舎町を出て東京へ。地元に残り働く者もいる。

そんな7人が時代の中で葛藤。かなり深刻&ハードで、青春の苦悩なんてものじゃない。次第に見えなくなる希望。壊れて行く「夢」と「憧れ」。監督は何者か?と調べると、僕より25歳年下で、脚本も担当している。撮影も凝っているし、部屋の照明は日本映画なのに、やたら暗くていい感じ。センスもある。映画を観ていて、とても暗い気持ちになるのは、監督の腕がいいからだ。

ちょっと気になったのが、部屋に映画のポスターが貼られているシーン。「ゴッドファーザーPARTⅢ」「時計仕掛けのオレンジ」そしてポスター大に引き延ばされた「明日に向かって撃て」のスチール。そんなときは監督が好きな作品である場合が多い。が、ポスターを劇中で使用するのは、いろいろと面倒。権利問題がある。使用料金も派生する。僕もそれで苦労したので、その辺は大丈夫なのか?少し心配になる。

話を戻して、7人の主人公たち。あえて一番の主人公は?というと、カメラが好きだった女子高生なのだが、クレジットでは歌手になる子が一番上に来ている。が、全員が主人公だろう。その一人。サラリーマンになる男の子がいる。なかなかいい味を出していた。保険会社に就職し、ノルマがこなせず、友人に保険を勧める場面とか真に迫っていた。顔が腫れていて、何日も寝ていない。追いつめられた感が溢れていた。メイクか? 前日寝ずに撮影に参加したのか? そこは分からないが演技を超えた徒労感が強く感じられた。いい俳優だ。

物語は悲しみの連続。夢を追い、破れ、踏みつけられる。信頼し、裏切られ、現実の悲しみの中で、7人の友情にもヒビが入って行く。ミュージシャンを目指し、プロ・デビューしながら、与えられた歌しか歌えずに悩む子もいる。同じくミュージシャンを目指しながら、プロ・デビューすらできず、田舎でくすぶる男の子もいる。観ていて、昔の自分を思い出す。

僕も田舎から映画監督を目指して上京。映画の専門学校で勉強した。だが、クラスには行かず、自主映画を作っていた。そこで5人の仲間が出来た。同じ映画監督を目指す奴が3人。俳優を目指す奴が2人。映画と違って皆、野郎ばかりだったが、気のいい仲間だった。が、映画と同じように、皆、現実にぶつかり、傷つき、夢が見えなくなって行く。1年目で挫折。故郷に帰った奴がいる。バイト先で気に入られて、そのまま正社員になり、夢を諦めた奴もいた。

また別の奴は部屋を訪ねると、もぬけの空。家財道具が全てなくなっていた。仲間に挨拶もなしに部屋を引き払い、どこかに行ってしまった。前々から落ち込んでいて悩んでいた奴だ。こうして最後は2人だけになる。1年目の春は毎日のように、皆で宴会。夢を語り合った。いつかはみんなで映画を作ろうと盛り上がった。それからわずか2年で、多くが挫折。現実の壁にぶつかり、夢を語ることもなくなった。飲み会をすることもなくなり、映画の話もしない。故郷に帰る者が続き、最後は2人になった。

「あの頃は、楽しかったよなあ….」

2人でそう話した。映画でもそんなエピソードがあった。人ごとではない。あの当時の辛い気持ちが蘇る。その後、僕はアメリカに留学。帰国してから15年かかり、映画監督デビュー。しかし、当時の仲間はもう誰もおらず、連絡先さえ分からなかった。その後、最後の1人となった友人と再会する。彼は映画を諦めて会社員になり、結婚し、一児の父となっていた。家を訪ねると、決して裕福ではないが、人の暮らしがそこにはあった。

僕は就職もせず、当然、結婚なんてする余裕はなく、子供なんてあり得ない。自分が生活するだけで精一杯。監督デビューをしたからと、依頼が次々に来る訳ではない。むしろ、その頃は映画を撮るたびに借金が増えていた。映画でも似たようなシーンがあった。結婚し、一児の父、母となった同級生。夢を追い続けるが、本当に歌いたい歌を歌わせてもらえない友達。次第に酒に溺れるようになり、喉がやられ、歌が歌えなくなって行く。

幸せって何だろう? 夢を掴むことなのか? 幸せな家庭を持つことか?  金持ちになること? 有名になること? そんなことを長年考えている。昔は映画監督になることが目標だった。が、実際にそこまで行くと、次は2作目を撮ることが目標になり、3作目、4作目。予算が豊富な大作映画を撮ること。そしてヒットを飛ばすこと。終わりのないハードルが並んでいるのが分かった。
友人と再会した話。もう少し続ける。監督デビューしたあと、再会した昔の仲間。喜んでくれた。

「お前ならいつか映画監督になると思っていたよ。皆、あんな形でいなくなったから、会わせる顔はないと思うけど、絶対に喜んでいるよ!」

しかし、夢を諦めたが妻も子もいる彼と、終わりなき戦いを続ける者と、どちらが幸せなんだろう?そう思えたが、あの頃を一緒に過ごした友人の存在は嬉しいものだった。そんな彼が次第に不満をもらすようになる。

「お前は勉強不足だ…」「だから、あんな映画しか撮れない!」

そんな批判をするようになった。毎回、会う度になじられ、次第に会い辛くなる。彼は精神的にも病んでいるようだったが、心のどこかに「なぜ、俺はダメだったんだ」という悔しさもあったのだろう。「こんな奴より、俺の方がいい作品を撮れるのに…」そんな感じだった。

その先もあるが、辛過ぎて書けない。映画でも最後に悲しい事件もあったが、同級生たちは故郷で久々に集り、笑顔で想い出話を語る。そんな彼らの前を高校時代の幻が通り過ぎて行く。夢って何だろう? 幸せって何だろう? そんなことを考えながら、明るくなった試写室で、1人席を立てずに考えていた…。



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