「明日にかける橋」感想ー映像が過去の経験を思い起こさせる時、人は感動する! by Saven Sato [明日にかける橋=感想]
「明日にかける橋」感想ー映像が過去の経験を思い起こさせる時、人は感動する! by Saven Sato
昨日、4月18日の試写会に招待していただいた。最前列の左端に座った。
太田隆文監督『明日にかける橋 1989年の想い出』は非常に丁寧な映画。その丁寧さに感激。建築家の難波和彦の「小さい家」を思い起こさせる。
2時間10分ほどで、長いと感じない。フィルム編集が丁寧。最近、イーストウッドの新作を見たが、内容はともかく、編集はバランスが悪く感心しなかった。それを見ただけに、よさが際立った。
ネタバレになるので、筋には触れない。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』をオマージュにしている。この映画には引用が少なからずあり、それを味わえるのも魅力の一つ。『傷だらけの天使』のショーケンも一例。
きれいな風景の映像がオーバーラップでつながれる中、主人公のナレーションが流れる。いつもながらオープニングがきれいだと見惚れる。これにより舞台の全体像がわかる。
カットの一つ一つに監督の意図が明確に伝わってくる。意図がわからないカットはない。カットに説得力がある。言葉に依存せず、映像に語らせている。だから、説明がなくても、事情がわかる。これこそ映画。
好例がテレビ画面のショット。テレビは映画と違い音声に依存する。ところが、音声のないニュース画面だけで、効果的に挟み込まれているので、どういう時代の気分なのかがわかる。
しかも、カットの間やシーンの間の音のつなぎなどの音が丁寧。また、昔と今の音環境は違いも丁寧。昔の街角や事務所、喫茶店など今と音環境が違う。なつかしいなと思った。
音楽は禁欲的に使われる中、マタイ受難曲が印象的。また、時間移動の映画を踏まえ、ワイプの際に発射音のような効果音が入る。こういう遊びも楽しい。
台詞の長さもカットの長さにあっていて自然に感じる。ちょっとしたおしゃべりが後の伏線だったりするので聞き逃せない。
カメラのサイズとアングル、構図もよい。監督の意思がスタッフに共有されていることがわかる。そこからスタッフの意欲も伝わる。
俳優は芝居感がなくてよい。映画はこれが大切。太田映画は女優の演技に定評があるが、脇役の男性陣が力が抜けていて好感を持った。近年の映画やドラマで見られるような力んで観客がひく演技がない。
感動は映像そのものが起こすものではない。映像が過去の経験を思い起こさせる時、人は感動するもの。それができる映画は感動を呼ぶ。つまり、表現による感動は経験に訴えること。
私は高校時代に亡くなった友人を思い出した。彼は、あの朝、待っても、来なかった。おかしいなと思った。学校でその死を知った。17歳だった。
また、重い足取りでカバンを持って階段を登る父、弟を背負う姉など歳をとると、生きていく際に重いものを担うことの意味が分かるもの。
そうした経験を思い出しつつ、この映画を見終わった。視覚障害のある私よりも皆さんの方が発見することが多いはず。自分の目で是非この映画を味わって欲しいと思う。率直に言って、派手な宣伝の大作よりも映画への愛を感じる作品。愛があるからこそ丁寧な映画。
ただ、一つ不満があった。それは試写会後に監督とこの映画について語り合える時間が少なかったこと。これが残念。機会があれば是非そうしたいもの
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